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●お話と感想
有川浩さんは、
トラウマやコンプレックスを抱える人の心理描写が非常にうまい方で、しかもそれを、掛け合いの中に絡めて表現するのがうまくて、いつも、そういう部分が好きで、楽しく読んでいます。
この作品は、主人公で、問題のある両親と絶縁した息子「俊介」が、また別の家庭で、両親が離婚の危機にある息子「航平」と絡むことで、トラウマをぶつけ合いながらも、とある問題に対して、協力し合っていく物語。
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まず俊介は、
父親は、DVだけど高収入。
母親は、金と自由のためなら、少しくらい我慢して殴らせてあげる。
そんな思考の持ち主。
幼い頃から父親のDVがトラウマで、いつか強くなって母を守る、ずっと、そう思い続けて成長してきた主人公も中学生になり、まだ強くはないが、体格は父親と同等になったので、勝てないまでも母親を守ろうと、母のために戦い続けた結果。
いつしか、
「暴れる不良息子から妻を守る優しい亭主。」
近所では、母親が言い触らした、そんな噂が広まっていた。
息子が逆らうから父親のDVがいつもの数倍になり、その結果、大きな声や音がするから近所でも噂になり、金と自由のために、旦那を守る必要がある妻は、旦那の機嫌を取るため、息子を悪者にしていた。
そんな両親に堪えられなくなった主人公は、高校を卒業してすぐ、両親とは縁を切り、家を出て1人暮らしを始め、両親が反面教師となったお蔭で、立派な社会人へと成長していきます。
同じ会社にいる「柊子」という素敵な彼女も出来て、そろそろ結婚しようという話になったとき俊介は「結婚式には両親を呼べないし、子供も欲しくない。」というが、・・・そんな主人公をどうしても理解できない彼女とは、溝が出来てしまい、二人は別れてしまいます。
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物語は、その数年後から始まります。
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主人公の会社では、子供を預かる学童の仕事もしていて、そこにくる「航平」という小学生は、母親の海外への転勤話がキッカケで両親が別居してしまい、父親は日本に残るので、このまま海外へ行けば、両親の離婚は確定という状況にいて、このままでは我が家は(いや俺が)不幸になる。
そう感じた航平は、
その状況だけは何としても阻止したかった。
そんな中、母親の漏らした
「もしもあの人が私の仕事を応援してくれてたら・・・」
そんな独り言を聞いた航平は、
父親に「応援するよ。」と言わせれば、元の幸せな家族に戻る・・・と思い込み、母親に内緒で父親を説得する作戦を決行する。
とは言え、航平は母親と「東京」に、父親は「横浜」にいるので、1000円/月の小遣いでは、思うように父親に会うことすらできない。
そこで、
ゴネれば必ず協力してくれること見越して、学童にいる、人の良い柊子に相談し、見事協力を取り付けたズルい航平だが、人の良い柊子は嘘を付けないので、勘の良い俊介に見透かされ、事情を知った子供嫌いの俊介も、渋々協力するようになる。
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複雑な事情が絡むので、すっげーーー長いけど、以上が前置き。
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そんな感じの設定なので、終始重くシリアスな物語かと思いきや、作者の有川浩さんが、そういう重い雰囲気が充満する物語を好まないので、俊介の職場にもボケ担当のゆるきゃらみたいなオッサンがいるし、物語の中盤以降にも、まるで新喜劇に出てきそうな、コントっぽいダメやくざが出てきて、いくら何でもコントのやくざはふざけすぎじゃね?と思ったら、終盤に、コントやくざだからこその良い味を出した展開があり、そこに、俊介や航平のトラウマの絡み合いが相まって、最後は結構感動しちゃいました。
子供の頃のトラウマって、大人になる過程で解消できたつもりでも、何かの加減でスイッチ入ると、すぐに子供の頃の嫌な気分が明確に蘇る。
俺も、
子供(5歳)の頃に母とは死別していて、父は子供のことを考えて再婚したのだけど、その継母がとんでもない気分屋で、浪費癖は激しいし、多重人格だし、とにかく自己中な人だったから、小中学生の頃は、兄弟全員が、なかなかに酷い人生でした。そして、俺が高校生になってからは、少しずつ継母とも対等に渡り合えるようになり、継母の支配も和らいできました。
だから、大人になっても何かのキッカケで悩む俊介の気持ちにも、今現在、不幸人生真っ只中にいる航平の気持ちにも共感できて、この物語は結構刺さりました。
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